マイスターの国 ドイツの材料の魅力 セルフレベリング材について
マイスターの国 ドイツの材料の魅力 セルフレベリング材について
今回はマイスターの国 ドイツの左官材料のお話です。
原田左官では現在、ドイツのセメント・接着剤メーカー「キーセル社(Kiesel)」とコンタクトを取っており、ドイツのセルフレベリング材、タイルの貼り材を日本に輸入し使用しています。
2018年から毎年ドイツに訪問し、現地研修を受けて、このメーカーの材料の良さを理解した上で、現在、日本でもお勧めをしています。
今回は、そのドイツ キーセル社のセルフレベリング材の魅力や特徴についてお伝えしたいと思います。
この材料メーカー キーセル社は、元々はリノリウムや床のシート材を張る接着剤の製造メーカーとしてスタートしたそうです。
床材をしっかり貼ることは接着材だけの問題ではなく、その下地がしっかりとしていなければならない、
しっかりとした床を作るために貼り付ける接着剤だけでなく、下地になるセメント系セルフレベリング材の開発に取り組み、販売している会社です。
イメージの部分もありますが、ドイツのメーカーさんなので、非常にまじめに商品開発に取り組まれていて、ある程度の量で使用する場合は、日本にも施工指導に来ていただいています。
(左:キーセルジャパン青木氏 中央:キーセル社技術責任者ラウザー氏 右:原田)
今回お伝えするものはセルフレベリング材。
セルフレベリング材とはレベラーとも呼ばれ、流動性があり、流すと自ら流れて水平レベルをとる性質のある材料です。
そのため、セルフレベリング=自ら水平を取ると呼ばれています。
(だからと言って勝手に流れるわけではないので、施工には経験や技術が必要です。)
キーセル社のセルフレベリングの良い点は
・速乾性がある 2時間後軽歩行可能
・厚みが付けられる 厚みをつけても痩せない
・表面強度がある そのままタイル下地、貼り床材の下地として使用できる。
が挙げられます。
何故、そもそもセルフレベリング材というものが開発されたかというと、躯体床と仕上げ材を薄く縁を切りたいからです。
躯体の床コンクリートを打設し、フラットに金鏝押さえをしますが、数百m2の床を誤差なくフラットにコンクリート押さえるというのは至難の業。
そのため、通常はコンクリート打設後、モルタルでかさ上げをし、仕上げ材を張ります。
しかし、床のモルタルの場合、砂を混入して仕上げるため、また、剥がれなどの原因になるため、薄く床に塗り広げることが出来ず、30mm以上モルタル打設が一般的でした。
躯体の上に薄く下地を取る方法がないかということで10mmから30mm程度で仕上がるセルフレベリング材というものが開発されました。
(コンクリートに直張り仕上げという工法もありますが、躯体と仕上げ材の縁を一度切らないと、躯体の動きを直接影響を受けるため、故障が多く、当社ではお勧めはしていません。)
10mm-30mmで床をフラットにするものとして開発されたセルフレベリング材ですが、日本で今、一般的に使用されているセルフレベリング材は乾燥が遅いもの、表面強度も弱いものが多いです。
セルフレベリング材は通常のモルタルよりも水分量が多く、流動化剤も混入されているため、流動性が増しているのですが、水分量が多いというのは「余剰水分の乾燥によるクラック」「表面強度の低下」という問題が起きます。
練る時の水分量が多ければ、水に近いので床に撒いたときにサーッと流れ、レベリングが取れやすくなります。
しかし、セメントが反応する以上の水分が入っているとその水は乾燥して蒸発するしかなく、乾燥により体積が減った部分が乾燥クラックとして表面に出てしまいます。
また、余剰水分が床面ではなく、上部の表面近くに上がってくるため、表面強度の低下にも繋がります。
もちろん、日本のセルフレベリング材でもちゃんとした材料性能は出せるのですが、10mm程度など薄くつけなければならない場合はレベリング性能を持たせたいため、規定量ギリギリ多く水分を混入するため、表面が弱くなりがちでした。
また、水分量が多いということは乾燥にも時間がかかります。
通常のモルタルは(季節にもよりますが)12時間後には軽くその上に乗ることが出来ますが、
セルフレベリング材の場合、24時間以上かかってしまいます。
そういう理由があり、通常のセルフレベリング材は
・塗り床、タイル下地には不可 (表面が脆弱なため)
・表面がパサパサな場合、ポリッシャーや表面強化剤をかけてからでないと次の工程に進めない
・乾燥が遅い
というデメリットがありました。
また、病院の手術室の通路など患者さんを乗せたストレッチャーが頻繁に行き来する部分はどうしてもタイヤなど1点に荷重がかかるため、下地が傷みやすく、下地がボロボロになり剥がれてしまうということも多いようです。
それを解決したのがキーセルのセルフレベリング材。
動画:セルフレベリング材 引っ掻きで強度比較 従来品とキーセルのレベラーD800【有限会社原田左官工業所】
動画の比較のように鋭いもので引っ掻いた場合、
従来品は深く傷がついてしまい、爪で引っ掻いても削れて粉っぽくなってしまいます。
このような現象が出るため、従来品では直接タイル張り・塗床が出来ません。
一方、キーセルのレベラーD800を打設後翌日に引っ掻いたものでは、
表面強度があり、傷は少し付きますが、粉状にはなりません。
強度があり、表面も粉っぽくなく、
これならば塗床施工やタイル張りが特別な処理なく施工できます。
それから乾燥について
キーセルの主なシリーズは、打設後約2時間で軽歩行が可能です。
例えばこちらは今年5月に施工した現場。
AM10:30にキーセルのレベラーD800を打設しました。
動画:レベラーD800の打設と乾燥後の状態【有限会社原田左官工業所】
打設から2時間後のPM12時44分にはこのように歩くことが出来ました。
このキーセルのセルフレベリング材
材料がいくつか種類があります。
まずはプレミックスのタイプ
【キーセル Ki-1 セルフレベリング材】
Ki-1 1-20mmの薄塗りに対応します。
こちらが見本板。表面が非常に滑らかに仕上がります。
動画:キーセルのセルフレベリング材 Ki 1の手触り【有限会社原田左官工業所】
【キーセル D800 セルフレベリング材】
D800 3mmから40mmの打設
一般的にキーセルのセルフレベリング材というとこれになります。
講習会での施工の模様がこちら。
動画:セルフレベリング材の講習会 キーセルD800の施工【有限会社原田左官工業所】
【キーセル E600 セルフレベリング材】
その他の種類で、もう少し厚く打設できるタイプもあります。
E600 5mmから80mm打設可能
t80程度の厚付けでも、セルフレベリングでやせないフラットな床を作れる材料です。
動画:セルフレベリング材キーセルE600を講習会で施工 やせない厚付け可能な床材料【有限会社原田左官工業所】
【キーセル E500】
また、レベリング機能のものばかりではなく、勾配部分に使用する材料もあります。
E500 石・タイル下地 勾配を付けたい時などに使用します。
動画:キーセルE500の施工 講習会【有限会社原田左官工業所】
この材料はバサモルのように水分量をかなり減らして練ります。
それを定木等で均して広げていけるので、勾配下地などにおススメです。
動画:モルタル キーセルE500の施工と乾燥後の強度確認【有限会社原田左官工業所】
この材料も数時間後にはこの強度が出ます。
ハンマーで叩いてもビクともしません。
どれも速乾性を兼ねそろえているので、数時間でこれくらいの強度が出るという驚きの材料です。
当社では駅の工事など数時間しか施工時間がないところ、
テナント共用部など、深夜6時間の工事で朝には養生して何万人の人を歩行させたい場合、
など緊急の工事で大活躍しています。
【キーセル RS 下地補修材】
それからもう一つ大活躍しそうな材料がこちら。
RS 厚みを付けられる速乾の下地補修材
これは階段の角補修など、非常に強度が欲しいところに使える速乾性の補修材。
例えば、欠けたコンクリートブロック
プライマーを塗り、このRSを厚付けし、成形します。
動画:欠けたブロックの補修と強度試験 速乾の下地補修材キーセルRSを使用【有限会社原田左官工業所】
2時間後にはこの強度が出ます。
緊急に角を補修したいとき、すぐに強度が欲しい時には有効です。
そして、どこにセルフレベリング材を打つかも重要です。
現在はリニューアル工事も多く、タイルの上、フローリングの上に施工できないかというご要望も頂きます。本来であれば、いろいろな処理をしないとセメント系の材料は施工できませんが、キーセルの材料にエポキシの下地材というものがあります。
【キーセル Okapox GF エポキシ下地材】
Okapox GF
これはエポキシの下地材です。
このエポキシと専用のメッシュを組み合わせることで木下地にもセルフレベリング等の施工が出来ます。
OkapoxGFの施工例
フローリングの上にグラスファイバーメッシュを入れてOkapoxGFを塗った状態
ベニヤの上にグラスファイバーメッシュを入れてOkapoxGFを塗った状態
通常のベニヤ板と、このOkapoxGFをベニヤに施工したもの、
両方でジャンプをして強度を試験しました。
動画:エポキシ下地材のたわみ追従性試験 Okapox GF施工のベニヤ板【有限会社原田左官工業所】
通常のベニヤはもちろんすぐ割れますが、
Okapox GF施工ではこんなに下地のたわみについて追従性が上がります。
ベニヤの上でジャンプしてもクラックが入りません。
ドイツ研修でも同じ実習をしました。
動画:Okapox GF施工と通常のベニヤ板 たわみ追従性試験 ドイツ編【有限会社原田左官工業所】
同じ条件でもOkapoxGFが入っていないものはこのように割れてしまい、
メッシュとOkapoxGFが入っている下地は割れません。
そんな弾性強度のあるOkapoxGFですが、優れている点はそれだけではありません。
エポキシですが、匂いが非常に少ないです。
この材料は2液性のエポキシですが、ほとんど匂いがしません。
また、道具を洗うのにもシンナーを必要とせず、アルコールティッシュ等でふき取れば綺麗になります。
室内施工でも換気の心配をあまりする必要がなく、また施工者にも優しい材料です。
【セルフレベリング材専用機 エーベンストック フローミックス2300】
また、セルフレベリング材を流すのにこの専用機械も活躍しています。
エーベンストック フローミックス2300
この機械はキーセル社とは別のドイツの機械工具メーカー エーベンストック社のもので、セルフレベリング工事に大活躍しています。
この機械の特徴は
・タイヤがついていて、本体が稼働するので、移動流し込みが簡単
・ボタンを押せばオートで撹拌できる
・集塵機がセットでき、粉塵が出ない
という点です。
従来の現場練りのセルフレベリングは70L程度の練りだるで材料を数本練り、台車に乗せて運んで、打設する場所で流していました。
重いので流すのも2人がかりでその間は撹拌できず、時間にロスがありました。
セルフレベリング材は決まった分数をしっかり撹拌しないとレベリング性能が出ないため、この撹拌時間が作業のボトルネックになっていました。
それがこの機械を使うと、
タイヤ付きなので、撹拌が終われば一人で移動できる。流し込みもバケツが回転するの一人で可能。
2台使用すれば、ボタン一つで撹拌できるため、一台が流している間にもう一台で撹拌し、時間のロスがなくなる。
集塵機をつけることができ、粉塵が出ない。
という風に画期的に作業が楽になります。
こういう機械を使うことも働き方改革の一つではないでしょうか?
エーベンストックのメーカーのYouTubeサイトに機械の使い方の説明がありますので、
こちらをご覧いただければこの機械の特徴が分かります。
動画:Mixing station - FloorMix 2300 (English)
現場の労働時間短縮などが叫ばれている世の中ですが、従来の生コン、モルタルだけでは材料が乾燥しなければ、押さえなど次の工程に行けず、左官の時間短縮や時間管理は非常に難しいものがありました。今回ご紹介したキーセルのセルフレベリングを使い、現場で押さえる工程を無くし、労働時間を短縮する、また、エーベンストック フローミックスという機械を使うことで効率を上げ作業時間を短縮する。
こういったやり方で当社なりの働き方改革に取り組んでいきたいと考えています。
労働時間を短縮し、効率を上げる。
粉塵や重いものを運ぶなどの負担を軽減し、職人さんが働きやすくする。
この材料と機械、これからの建築現場の課題解決の一つかもしれません。
良い材料、良い道具への思いと今後のチャレンジ
今回お伝えしたかったことは、ドイツの材料が素晴らしいという単純な内容ではありません。日本の材料・道具の中でもより良いものや今回ご紹介したものに近いものもあると思います。
そういった良い材料・良い道具を我々施工会社がいち早く知り、実際の現場で導入できるように勧めていくのが、人が手を動かして働く専門工事業者の役割の一つではないでしょうか?
今までにない材料なので、初期の金額は高いかもしれません。しかし、ちゃんとした性能が長持ちできる材料であれば施工後の補修費用がなくなり、ランニングコストは安くなるのではないでしょうか?
良い材料・良い道具を使い、求める性能が長持ちし、かつ施工者の体に負担がかかりにくいものにランニングコストを照らし合わせて、合致するものは切り替えていくべきなのではないでしょうか?
今の日本の施工はだれが責任を取るか、責任が不明確で結果的に下請けの専門工事業者が責任を持つということも少なくありません。
設計士様、元請け様、施主様も含めて求める性能を共有して施工するというのがこれからの日本の建設業に必要な部分だと感じています。
原田左官はそのような考えのもと、これからも新しいものにチャレンジしていきたいと考えています。
今後ともよろしくお願いします。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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