モルタルアートとモールテックスの違い

モルタルアートとモールテックスの違い

今回はモルタル調仕上げの比較についてです。

■モルタル調仕上げの概要

モルタルまたはモルタル調の仕上げは、左官仕上げの中でも根強く人気がある仕上げ方法です。
モールテックスの登場により、什器や家具、キッチンなどにもモルタル調の仕上げが手軽にできるようになり、モールテックスで作ったカッコいいモルタルテーブルなども多く見かけるようになりました。

モールテックスの同等品も世の中に多く出てきていて、「左官と言えばモルタルの仕上げ!」となるくらいモルタル調の仕上げが盛り上がっています。
今回はそのモルタル調仕上げを当社なりの見解でわかりやすく解説していきます。

そもそもそのままのモルタル仕上げ(セメントモルタルの仕上げ)は昔から人気のある仕上げでした。
今でこそ、モールテックス仕上げが人気になりましたが、以前はモルタルそのままを仕上がりにしているところが多かったです。
フラットでありながら独特な色合いのムラがあり、床でも壁でもよく使用された仕上げです。
しかし、セメントモルタル仕上げの最大の弱点はこのようにクラックが入ってしまうことでした。

クラックが入った状態のモルタル床
(床モルタルにクラックが入った状態の例)

セメントの仕上げは下地の動きに追従できずどうしてもクラックが入ってしまいます。
そのセメントモルタルの弱点であるクラックを防いだものが最近のモルタル調の仕上げです。

クラックの発生を防いだモルタル調の仕上げ、左官で代表的なものは2種類あります。

  1. 1.マイクロセメント系仕上げ

  2. 2.樹脂系モルタル調仕上げ

その他、塗装系の仕上げなどもあります。

■マイクロセメント系のモルタル仕上げの特徴

一つ目のマイクロセメント系のモルタル仕上げについて。

この仕上げの代表的なものがモールテックス(mortex)です。
2014年に日本に入ってきてからここ数年、どんどん施工例が増えていきました。
モールテックス以外にもデコリエ(Decolie)、モラート(MORART)等の商品があります。
このマイクロセメント系の仕上げの多くは1-2mm程度で仕上がる薄塗りの左官仕上げで、下地のたわみに追従してクラックが入りにくいのが特徴です。

追従性のテストでモールテックスを塗った板を曲げている様子
(モールテックス追従性のテスト 薄ベニヤを曲げても割れ・はがれが無い様子)

この特徴があったため、木工の上にモルタル調仕上げができ、「家具を左官で仕上げる」という今までにない新しい左官の使い方が爆発的に日本で流行しました。

モールテックステーブル
(モールテックステーブル:原田左官施工)

モールテックスキッチン
(モールテックスキッチン:原田左官施工)

モールテックスカウンターテーブル
(モールテックスカウンター:原田左官施工)

■モールテックスについて

またモールテックスはカラーが豊富なのも特徴です。
原田左官オリジナル色でも標準で65色の種類があります。

モールテックスの原田左官オリジナルカラー
モールテックスの原田左官オリジナルカラー
モールテックスの原田左官オリジナルカラー
(モールテックスカラーチャート:原田左官オリジナルカラー)

モールテックスオリジナルカラーのページはこちら。
https://www.haradasakan.co.jp/webcatalog/webcatamortex/color/

モールテックスは下記のように機能面と意匠面で今までのモルタルに無いものを持っていました。

  • ・割れない、剝がれないという高機能
  • ・65色と他のモルタルにはない豊富なカラー


そのため、日本で一気に広まっていきました。

モールテックスは世界的に言うとマイクロセメントというジャンルの仕上げ材。
薄塗りのセメント系の仕上げです。
日本ではモールテックスが有名になりましたが、イタリアのメーカー、スペインのメーカー、いろいろな会社が高い意匠性を持った薄塗りのセメント仕上げを発売しており、日本のメーカーも追従してマイクロセメント系仕上げを開発・発売しています。

無機質なセメントの表情を木工下地で施工できるというのがマイクロセメント系の最大の特徴。
下地の追従性も高いため、浮き・はがれということも全く無い。
そして表面強度も強いのも特徴です。

モールテックスの床をヒールで歩いている様子。引用元:Mortex Beal International ウェブサイト
(モールテックスの床をヒールで歩いても削れ・はがれが無い様子)
(※引用元:「Mortex - Beal International」webサイト)

このようにセメントモルタル・コンクリートの重厚感や深みのある表情を薄塗りで表現でき、なおかつ剥がれず丈夫な仕上げが出来るのがマイクロセメント系の特徴です。

■樹脂系モルタル調仕上げの特徴

一方、もう一つの仕上げ、樹脂系のモルタル調仕上げについてです。
これはアクリル樹脂等を基材にした樹脂系左官材でモルタル調に仕上げるものです。
下塗り・上塗りの色を別にすることで色ムラ・質感を出し、モルタルのような表情を出す仕上げ方法。
代表的なものはアイカ工業のクライマテリアシリーズのモルタルアート。

モルタルアートの概要・特徴。引用元:アイカ工業webサイト
(※引用元:アイカ工業WEBサイトモルタルアートページ)

単色ではなく揺らぎを持った色合いがモルタルのような風合いを出します。
モールテックスのようなマイクロセメント系の仕上げをアクリル樹脂系で表した仕上げです。

メリットは白華しないという点です。
白華(はっか:エフロレッセンス)とは、セメントの中の水酸化カルシウム分が溶け出し、表面に白く出てしまう現象です。
このセメント系の最大の弱点である白華現象がアクリル樹脂系では起こりません。

白華の発生例の写真がこちらです。

セメント系仕上材の白華の発生例
(白華発生例)

黒いセメントモルタルが白く色飛びしています。

モルタル以外に、タイルの目地部分から白い塊が流れ出ているもの、外壁の黒かった漆喰が白っぽくなり色がぼけてきているものもこの白華が原因です。

この白華現象は自然現象であり、石灰が入っている材料はどうしても発生してしまう可能性があります。
セメントや漆喰など石灰が入っている左官の基材では5℃以下の寒い時は施工しない、トップコートで防ぐというのが基本ですが、なかなか完全には防ぎきれません。

それを解決したのが樹脂系のモルタル調仕上げです。
基材にセメントが入っていないため、白華するということが起こりません。
白華現象は冬場の施工や施工後の雨打たれ、トップコートの保護前に水に濡れてしまうなどで起こるものですが、樹脂系のモルタル調仕上げでは白華することがなく、冬場の施工や外部での施工には向いています。

メリットのある樹脂系のモルタル調仕上げですが、難しい点もあります。
基本的に2色を組み合わせて仕上げるため、色の合わせ方によっては下塗り上塗りの色の差が極端に出たり、逆におとなしすぎたりコントロールが少し難しいことが多いです。

■モルタルアートサンプル例

写真は当社で過去作った下塗り・上塗りの色の差の見本です。

クライマテリアモルタルアートのサンプル4種。下塗り・上塗りのコントラスト比較用サンプル
(クライマテリアモルタルアート:下塗り・上塗りのコントラスト比較サンプル)
※左下の箇所は下塗りの状態です。

同じ色合いでもコントラストおとなしいもの

原田左官モルタルアートのコントラストが大人しいサンプル
(原田左官モルタルアートサンプル:コントラスト大人しめ)


コントラストがはげしいもの

原田左官モルタルアートのコントラストが激しいサンプル
(原田左官モルタルアートサンプル:コントラスト激しめ)

このように色を指定しても幅が広いサンプルが出来上がります。
写真のものは下塗りが黒の上にグレーの上塗り材なので、塗り方によってはもっと激しくコントラストが出てしまうこともあります。

こちらはモルタルアートCM05色の大判見本板。

モルタルアートCM05色の大判サンプル
(アイカ工業モルタルアートCM05色サンプル)

この見本の中でも区分けするとコントラスト強めとおとなしめの部分があります。
強めの部分

モルタルアートCM05色の大判サンプル。コントラストの強い箇所
(アイカ工業モルタルアートCM05色サンプル:コントラスト強め)

おとなしめの部分。

モルタルアートCM05色の大判サンプル。コントラストが大人しめの箇所
(アイカ工業モルタルアートCM05色サンプル:コントラスト大人しめ)

逆に下塗り・上塗りをお互いフラットに塗ってしまうと上塗りの色しか見えず、のっぺりした仕上がりにもなりがちです。

下塗りと上塗りがフラットなモルタルアートサンプル
(アイカ工業モルタルアートサンプル:下塗り・上塗りフラット)

見本板と現場施工の違いなどが出ないように、現場で指定するには現物サンプルをその場に持ち込んでしっかり見ながら施工する必要があります。

■モルタルアート施工事例

モルタルアートの施工例はこちらです。

クライマテリアモルタルアートの円形ベンチ
(円形ベンチ クライマテリアモルタルアート:新宿アイカ工業ショールーム)

クライマテリアモルタルアートのカウンター什器
(カウンター クライマテリアモルタルアート:新宿アイカ工業ショールーム)

■マイクロセメント系と樹脂系モルタル調仕上げのメリット・デメリット

マイクロセメント系と樹脂系モルタル調仕上げ、それぞれのメリット・デメリットを整理するとこちらです。

マイクロセメント系のメリット

  • ・セメントによる無機系の質感
  • ・薄塗りでありながらセメントによる重厚感が出る
  • ・下地の追従性が高い
  • ・表面強度がある


マイクロセメント系のデメリット

  • ・白華が起きる可能性がある
  • ・セメントの硬化により夏場と冬場では施工性が違う
  • ・セメントの乾燥状況により色のブレがある


樹脂系モルタル調仕上げのメリット

  • ・色のブレが少ない
  • ・白華が発生しない


樹脂系モルタル調仕上げのデメリット

  • ・少し樹脂っぽい仕上がり感
  • ・色の組み合わせが限られている
  • ・色の組み合わせにより極端なコントラストが出る場合がある
  • ・比較的おとなしい表情が多い


表にまとめるとこちらです。

マイクロセメント系と樹脂系モルタル調仕上げのメリットとデメリット表。
※あくまで当社の見解です。

モールテックスに代表されるマイクロセメント系はやはりセメントの質感が出るため重厚感・本物感があります。

モールテックス施工の外部壁
(モールテックス外部の施工例)

しかしセメント系のため、冬場や外部の施工には注意が必要です。

一方、樹脂系のモルタル調仕上げは色の安定や白華しないなどのメリットはあります。

クライマテリアモルタルアートの円形ベンチ
(樹脂系モルタル調仕上げの施工例)

樹脂系のため、おとなしい質感になりやすい、樹脂っぽい仕上がりが出る、などのデメリットもあります。
人気のモルタル仕上げ。セメント系、樹脂系をお互いのメリットを生かし、うまく使いこなして行きたいです。
今後もモルタル調仕上げは根強い人気があると思われます。

グレーの中での自然なムラ感やグレーでもウォームグレー、ブルーグレーなど選べるなどモルタル調仕上げのバリエーションは今後も広がっていきます。
当社でもモルタル調仕上げを使いこなし、新たな提案が出来るよう頑張っていきます。

webカタログ:モールテックス
https://www.haradasakan.co.jp/webcatalog/webcatamortex/

モルタルアート(サイト内検索)

webカタログ:樹脂系左官仕上げ材
https://www.haradasakan.co.jp/webcatalog/webcatasakan/webcatajushi/

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この記事を書いた人
原田宗亮

有限会社原田左官工業所代表の原田。
二級施工管理技士/左官基幹技能者/タイル検定二級。
(一社)日本左官業組合連合会監事及び青年部の副部長。
左官の講習会やワークショップを企画・開催し、左官の啓蒙活動を行っている。
建設業界のダイバーシティを推進し、女性の左官業界への参加の手助けや新しい人材の採用育成に力を入れている。
著書に「新たなプロの育て方」㈱クロスメディアマーケティング
「世界で一番やさしい左官」㈱エクスナレッジ

お問合せ先

有限会社原田左官工業所
113-0022 東京都文京区千駄木4-21-1
電話番号:03-3821-4969 FAX番号03-3824-3533

左官のミライ通信「Sakan Concierge(左官案内人)」

発行元:有限会社原田左官工業所・株式会社エイチアール
発行責任者:有限会社原田左官工業所 原田宗亮
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メールアドレス:sakan@haradasakan.co.jp

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