【設計士向け】難しいを簡単に!左官の色合わせ

【設計士向け】難しいを簡単に!左官の色合わせ

今回は左官の色合わせ・調色についてお伝えします。
現場で調合してオリジナル色を作るというのは左官の魅力の一つです。
しかし、色を合わせるとなると左官の場合、非常に難しくなります。
今回はなぜ左官の調色は難しいのか?どうすれば対処できるかを説明します。

    • ■左官材の色合わせ・調色が難しい理由
      • ・乾燥を要するため色の確認に時間がかかる
      • ・顔料により、色の出方に差がある
      • ・基材の色に左右される
      • ・骨材の色に影響される
      • ・乾燥環境により色の変化がある

    • ■対処方法
      • ・事前に配合見本を作成する

    • ■色合わせ出来ることによるメリット
      • ・色合わせにより実現した施工例

  • ■まとめ

左官材の色合わせ・調色が難しい理由

・乾燥を要するため色の確認に時間がかかる
左官仕上げは、基本的に水で練った材料を塗り、乾燥して仕上がりになります。
そのため、仕上がりの色を確認するには乾燥した状態を見なければなりません。
それを工程で分けてみると
① 予想して顔料を調合→②材料練り→③塗り付け→④乾燥→⑤確認
と工程がいくつもあり、時間がかかってしまいます。
厚く塗る材料であれば乾燥に1日以上かかるものもあります。

樹脂系左官材や珪藻土など左官メーカーさんが作っている材料であれば、そのメーカーさんに特注色の依頼をすることも出来ますが、現場で調合する材料はそのようにできません。
砂とセメントと顔料を混ぜるカラーモルタルや現場調合の色漆喰、当社のようにオリジナル左官材を作っている会社では自分たちで顔料を調合し、色を出す必要があります。
見本板を作成し、確認するには上記のように時間がかかりますし、思った色が出なかった場合はまた違う調合をテストする必要があります。一つの色を出すにあたり、何枚も見本板を作らなければなりません。乾燥して初めて色が分かるというのが左官の色合わせの難しい点の一つです。

・顔料により、色の出方に差がある
左官の場合、予想して顔料を調整してもぶれることが多いです。その理由は顔料を同じパーセンテージの量を足していっても顔料の種類によって色の出方(反応)に差があります。
これは左官以外の調色でも言えることかもしれませんが、少量でも濃く出てしまう顔料、反応が鈍い顔料があります。傾向としては赤や黒の顔料は少量でも反応が強く、黄色は弱いです。オレンジ色を作る場合、赤と黄色を混ぜますが、目標のオレンジ色に近づけるのに赤の色をかなり引いた状態で作ることが多いです。
少量赤が加わっただけでかなり赤色に寄ってしまうということが良くあります。色を調色していくというのは、急に濃くなったり、色の差が出なかったりとなかなかコントロールが難しいです。
初めから調合を変えて複数枚作成をしていくのですが、サンプルAとサンプルBの間くらいの色が近いかな、という風になかなか正解の色を出すことが出来ません。
顔料により色の出方に差があるのが左官の調色の難しいところです。

・基材の色に左右される
左官の調色は基材の色にも左右されます。基材とはセメントや石灰など左官材を固める役割を持っている部分の事です。
セメントモルタルであれば基材はセメント、漆喰であれば消石灰が基材です。
基材が消石灰であれば真っ白ですが、白セメントは少しグレーや青みがかっています。消石灰ベースで調合して色を配合して出来上がったものを白セメントベースに変えると基材が違うため、同じ調合だと色が合わず、一から調合をやり直さなければなりません。
壁は色漆喰で床はカラーモルタルで同じ色に合わせたいというご要望に対しての色合わせは基材が違うため、結構大変です。
基材に色があるというのも左官の調色を難しくしている原因です。

・骨材の色に影響される
色合わせする材料には骨材の色が更に影響してきます。骨材とは砂をイメージしていただけると分かりやすいです。モルタルに混ぜる砂やジョリパットなど仕上げ材に混入する白い砂などです。鏝押さえで平らにする仕上げもありますが、砂が入ったザラザラな肌を見せるなど骨材が表面に出てくるものがあり、それが仕上がる色にも影響してきます。
寒水石や硅砂、天然砂など骨材にも色がついているため、ベース材で色がピッタリになっていても、骨材を入れたら色味が変わってしまうということもあります。
骨材を入れた状態で調色をしていきますが、作成しているうちに仕上げの表情が変わり、また調色からやり直すというケースもあります。
骨材の色に影響されるというのも左官の調色の難しい点です。

・乾燥環境により色の変化がある
色合わせが難しい点のもう一つの原因に、環境による色の差というものもあります。
下地の水引きが多い場合は目標より薄くなることがあります。
夏場・冬場では乾燥スピードが違い、同じ調合でも色の差が出る場合があります。
気温だけでなく湿度や調合するときの水分量も色に影響を与えることがあります。
左官の場合、乾燥環境により色の変化が出る場合があります。

以上、左官の色合わせの難しい点をピックアップしました。そういったことがあり、左官の場合、色をピッタリ合わせる、調色が非常に難しいのです

対処方法

・事前に配合見本を作成する

左官の色合わせは難しいことをお伝えしましたが、ではどうすれば理想の色の左官仕上げを作ることが出来るでしょうか?
それは事前におおよその配合見本を作っておくことで解決します。
左官の場合、乾燥状況もあるため、完璧に色を合わせるということは出来ません。
ただ、完璧に合わせることが出来なくても、その色の方向に近づける、おおよそ合わせることは出来ます。でもこれは色合わせに経験のある左官さんでないと難しいことです。
調色の作業は顔料を足し引きしていくことなので、作業自体は単純に見えます。特殊なことは無いかもしれませんが、この顔料をどれくらい混ぜたらこの濃さが出るなど経験が必要で、何も情報がないところからゼロベースで色を当てていくというのは非常に時間がかかります。
色合わせが難しい点を理解したうえでの勘と経験が必要になります。
当社の場合、調色に関しては長年の試作で蓄積された配合見本があり、日塗工やDICなどで色指定があった場合、配合見本からアタリを付けて作成しています。
配合見本があることで指定色に近い色から調色の技術を持った職人が見当を付けて、勘と経験から近い色を作成しています。
そうすることで時間のかかる左官の色作りをいままでよりも短時間で作成することが出来るようになりました。

今回はその配合見本の一部をご紹介します。
塗り版築の配合見本です。

塗り版築の配合見本

今、色指定が多い左官仕上げとしては塗り版築が挙げられます。
塗り版築は版築を柄として考え、鏝塗りで版築を表現した仕上げ。層が積み重なった仕上げのため一層ずつに表情を変えたいというご希望が多く、色指定が多い仕上げです。

その塗り版築、一層ずつ色を合わせていくと一枚の見本の中で何十回も色調整が必要になり、製作に膨大な時間がかかります。また、選んでいただく設計士・デザイナーの方も一つずつ指定する、出来上がった見本からまた調整するなど繰り返していくと非常に手間と時間がかかってしまいます。
そのため、過去の見本板やこの配合見本をご覧いただいて色の想像をしていただいていました。
今までは当社の試作倉庫に置いてありましたが、皆さんに色の雰囲気を掴んでいただこうと原田左官ショールーム内に塗り版築の見本カラーチャートを展示することになりました。

カラーチャートは全部で60色。

塗り版築のカラーチャート見本

塗り版築のカラーチャート見本

濃淡も含めると180色程度、色があります。
(今後も増えていく可能性はあります。)
まずはこの180色からご希望の色に近いものを探して頂ければ、色作成がスムーズです。

塗り版築のカラーチャート見本。カラー1%色・3%色・5%色の各30種類

塗り版築のカラーチャート見本。カラー1%色・3%色・5%色の各30種類

これ以外にも特注色も用意しています。
こちらは特注色のカラーチャート。

塗り版築の特注色カラーチャート見本
(原田左官塗り版築、特注色カラーチャート1)

塗り版築の特注色カラーチャート見本
(原田左官塗り版築、特注色カラーチャート2)
特注色も随時増やしていきます。

また、よくご質問を頂くのは濃い色はどこまで出来るのかという点。
これは色粉の限界色などを考慮した色サンプルを準備し、視覚的に分かりやすいようにしていく予定です。

上記のカラーチャートは塗り版築で作成していますが、当社のオリジナル仕上げであるポリーブルやフルーフレなど他の塗り壁材でも応用できます。
ここからおおよその色のアタリを付けていただき、サンプル板試作へ進んでいただけると何度も見本をやり取りする回数は減り、スムーズになっていきます。


色合わせ出来ることによるメリット

・色合わせにより実現した施工例
そのような仕組みにより以前よりスムーズになった左官や塗り版築の色合わせ・調色仕上げ。下記のような特注施工例が出来ます。

例1  オフィスでの塗り版築。
このサンプルの中間色を再度作成し、現場で施工しました。

塗り版築サンプルの中間色の指示書
(塗り版築サンプル:中間色の指示)

完成写真がこちら。

オフィスの塗り版築壁施工例

例2  マンションエントランスの施工例
同じ色の方向の淡色、濃色を作り、濃色を差し色として施工しました。

塗り版築の淡色濃色比較サンプル
(塗り版築:淡色濃色の比較サンプル)

施工写真がこちらです。

マンションエントランスの塗り版築壁施工例

例③  カラフルな仕上げ
1層ごとに色が違うカラフルな塗り版築のサンプル。

1層ごとに色が違うカラフルな塗り版築のサンプル

1層ごとに色が違うカラフルな塗り版築のサンプル
(塗り版築多色使用)

調色作業は大変でしたが、これがあることで現場作業がスムーズに行うことが出来ました。

保育施設のカラフルな塗り版築壁施工例
(塗り版築:保育施設施工例)

まとめ

左官仕上げで色合わせ、調色をして出来上がったものはその場にしかない唯一無二のものです。
バッチリ合わせるというのは今も昔も限界がありますが、蓄積されたデータによっておおよその色合わせはスムーズに行えます。
それでも見本板作成にはお時間と費用を頂くようになりますが、スピード感をもってスムーズに対応することが出来るようになりました。
是非、左官での色合わせに協業でチャレンジしてみませんか?
原田左官の特注色対応メンバーがお客様のイメージ色を左官で表現できるよう努力します!

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この記事を書いた人
原田宗亮

有限会社原田左官工業所代表の原田。
二級施工管理技士/左官基幹技能者/タイル検定二級。
(一社)日本左官業組合連合会監事及び青年部の副部長。
左官の講習会やワークショップを企画・開催し、左官の啓蒙活動を行っている。
建設業界のダイバーシティを推進し、女性の左官業界への参加の手助けや新しい人材の採用育成に力を入れている。
著書に「新たなプロの育て方」㈱クロスメディアマーケティング
「世界で一番やさしい左官」㈱エクスナレッジ

お問合せ先

有限会社原田左官工業所
113-0022 東京都文京区千駄木4-21-1
電話番号:03-3821-4969 FAX番号03-3824-3533

左官のミライ通信「Sakan Concierge(左官案内人)」

発行元:有限会社原田左官工業所・株式会社エイチアール
発行責任者:有限会社原田左官工業所 原田宗亮
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メールアドレス:sakan@haradasakan.co.jp

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