イタリアでの左官仕上げ ヴェローナでのカルロ・スカルパ

イタリアでの左官仕上げ ヴェローナでのカルロ・スカルパ

代表の原田です。
先日、イタリアに行く機会があり、たっぷりとイタリアの建築や仕上げを堪能してきました。その中でイタリアの建築家カルロスカルパの建築に物凄く感動しました。
今回はカルロスカルパの建築の中でもカステルベッキオとヴェローナ銀行を中心にお伝えします。

カルロ・スカルパについては熱烈なファンが多くいますし、より詳しい情報は私の浅い知識よりも書籍やWEBで調べていただいたほうがより正確に伝わると考えますので、(日本では安藤忠雄さんも大変影響を受けたと言っています。)今回は、私からの視点でのスカルパ建築の面白さをお伝えしたいと思います。

職人的な建築家 スカルパ

まずはカルロ・スカルパのことを少しだけ。
カルロ・スカルパは建築家の中でも職人的、工芸的な人だと言われています。
スカルパ自身がガラス職人の訓練を積んで製作に没頭していた時期もあり、職人的観点を非常に持っている方です。コンクリート、石、木、鉄などそれぞれの素材を用いる技法が多く、コンクリート打ち放しも多用されています。
20世紀半ば、建築業界が派手なものへと移行していくのに逆らうように、コンクリート、木材、ガラス、時には錆びた鉄など有機的なものと無機的なものを融合させる建築を多く作っています。納まりや細部への拘りは物凄いものがあり、ネジやヒンジから手作りすることもあったそうです。その拘りはフィリップジョンソンという建築家が「ほんの小さな棒切れや意思のかけらも詩にしてしまう」と称したという話があるそうです。
(この部分は左官でいうとまるで小林澄夫さんのようです。だからこそスカルパの熱烈なファンがいるのでしょうね。)
そしてスカルパ建築の中でも印象的なのが左官のスタッコ仕上げ。

スタッコ仕上げ
(スタッコ仕上げ)

その磨き上げられたスタッコ仕上げは鏡のように艶のある仕上げでした。
(スタッコ仕上げについては石灰磨き、イタリア磨き、イタリアンスタッコ、アンティコスタッコなど様々な呼び名がありますが、ここではスタッコ仕上げとします。)


カステルベッキオ

まずはカステルベッキオで見てみましょう。

カステルベッキオ美術館
(カステルベッキオ美術館)
カステルベッキオとは古いお城の意味。古いお城を改装して美術館に改装しています。

カステルベッキオで有名なのはこのアングル。

カステルベッキオ美術館 内部
(カステルベッキオ美術館 内部)
それぞれの展示室がアーチ状の開口で繋がって見えています。

スカルパ独特の意匠である鉄のフレーム。

素材の見切りに使用されている鉄のフレーム
(素材の見切りに使用されている鉄のフレーム)

コンクリート、石、木材などが鉄のフレームに納まっています。

カステルベッキオ 外壁打ち放しコンクリートと鉄のフレーム
(カステルベッキオ 外壁打ち放しコンクリートと鉄のフレーム)

カステルベッキオ 鉄のフレームに囲まれた床のコンクリート刷毛引き仕上げ
(カステルベッキオ 鉄のフレームに囲まれた床のコンクリート刷毛引き仕上げ)

板材を鉄のフレームで巻いている
(板材を鉄のフレームで巻いている)

石の階段や荒々しく粗面な壁を残しているところも印象的です。

階段踏み石 大理石かイストリア石
(階段踏み石 大理石かイストリア石)

カステルベッキオ 壁
(カステルベッキオ 壁)

カステルベッキオ 壁
(カステルベッキオ 壁)

そしてスタッコ仕上げ

カステルベッキオ スタッコ仕上げ 赤
(カステルベッキオ スタッコ仕上げ 赤)

カステルベッキオ スタッコ仕上げ 赤
(カステルベッキオ スタッコ仕上げ 赤)

カステルベッキオ スタッコ仕上げ 黒
(カステルベッキオ スタッコ仕上げ 黒)

カステルベッキオ スタッコ仕上げ 黒
(カステルベッキオ スタッコ仕上げ 黒)

カステルベッキオ スタッコ仕上げ 青
(カステルベッキオ スタッコ仕上げ 青)

この色とりどりのスタッコ仕上げが50年以上前の仕上げだとは考えられませんね。
メンテや塗り替えは行っているのかもしれませんが、全てが同じ艶感で輝きを放っていました。青や赤は濃く、黒は深みのある漆黒でした。

スタッコ仕上げの見切りにも鉄のフレームを使用しています。

スタッコ仕上げと鉄のフレーム
(スタッコ仕上げと鉄のフレーム)
鉄は黒くなっていて非常に良い味を出してました。建築当初どのように見えていて、この経年変化を予想していたかまではわかりませんが、今現在の見え方が非常に素晴らしかったです。(カルロ・スカルパ本人は日本を何度も訪れ、日本的なものをよく研究していたそうです。茶室の壁のように時間をかけて錆を呼ぶような、長い時間を経た見え方も含めて考えていたのかもしれませんね。)

他にも、カルチェラザータの壁

カステルベッキオ カルチェラザータ
(カステルベッキオ カルチェラザータ)

カステルベッキオ カルチェラザータ
(カステルベッキオ カルチェラザータ)

こんな版築のような塀もありました。

カステルベッキオ 版築調コンクリート
(カステルベッキオ 版築調コンクリート)

もちろん、カルテルベッキオはスタッコ・左官仕上げ以外にも見どころは満載。
このコンクリートの階段も非常に特徴的ですね。

カステルベッキオ コンクリート階段
(カステルベッキオ コンクリート階段)

カステルベッキオ コンクリート階段
(カステルベッキオ コンクリート階段)
このように非常にディテールへの拘りを強く持った人でした。

ヴェローナ市民銀行

カルロ・スカルパの建築は大半が既存の建物の改修などリノベーションが多かったようです。リノベーションと言っても修復ではなく、創造的にデザインするというのがスカルパの特徴。ヴェローナ市民銀行は本社屋を残し、その他の建物は取り壊し、作り直して複合した建物です。ここでもスカルパ建築の素晴らしいスタッコ仕上げを見ることが出来ます。

ヴェローナ銀行
(ヴェローナ銀行)

ヴェローナ銀行の印象的な窓
(ヴェローナ銀行の印象的な窓)

ヴェネチア人 スカルパとスタッコ仕上げ

ここでもコンクリート、鉄、そしてスタッコ仕上げは多用されています。

ベローナ銀行 スタッコ仕上げと鉄のフレーム
(ベローナ銀行 スタッコ仕上げと鉄のフレーム)

ベローナ銀行 コンクリート柱
(ベローナ銀行 コンクリート柱)

ベローナ銀行 スタッコ仕上げと鉄のフレーム
(ベローナ銀行 スタッコ仕上げと鉄のフレーム)

ベローナ銀行 スタッコ仕上げ 階段壁
(ベローナ銀行 スタッコ仕上げ 階段壁)

ヴェローナ銀行 階段スタッコ仕上げ
(ヴェローナ銀行 階段スタッコ仕上げ)
少し見えている天井もスタッコ仕上げです。

スカルパがスタッコ仕上げを多用したのはヴェネチア出身だったからでしょう。(イタリアは昔、ヴェネチア、ミラノ、フィレンツェの都市がそれぞれの国に分かれていて、地域の特色が今でも強いそうです。人によってはイタリア人というよりヴェネチア人という意識が強いそうです。)
スタッコ仕上げは時に予算的に大理石仕上げにできなかった時の代用と言われたりしますが、それはまったく間違いのようです。確かに擬石仕上げの側面はありますが、予算に合わないからスタッコ仕上げというわけではなく、ヴェネチア独特の理由があり、ヴェネチアでスタッコ仕上げが発展していきました。その理由とはヴェネチアが無数の木の杭の上に人工的に建てられた島のため、建物に重みを持たせることが出来ず、石の仕上げを出来るだけ避けたため、スタッコ仕上げが考えられたということです。(それを知るとスタッコ仕上げとのかかわり方も変わります。)
このヴェローナ銀行でもスタッコ仕上げが印象的な使い方をされていました。

ヴェローナ銀行 スタッコ仕上げ
(ヴェローナ銀行 スタッコ仕上げ)

ヴェローナ銀行 スタッコ仕上げ
(ヴェローナ銀行 スタッコ仕上げ)

ヴェローナ銀行 スタッコ仕上げ
(ヴェローナ銀行 スタッコ仕上げ)

ヴェローナ銀行 スタッコ仕上げ 扉が色違いの青の仕上げ
(ヴェローナ銀行 スタッコ仕上げ 扉が色違いの青の仕上げ)

ヴェローナ銀行 黒のスタッコ仕上げ 天井もスタッコ仕上げ
(ヴェローナ銀行 黒のスタッコ仕上げ 天井もスタッコ仕上げ)


階段への壁の印象的なスタッコ仕上げ
(階段への壁の印象的なスタッコ仕上げ)

階段への壁の印象的なスタッコ仕上げ
(階段への壁の印象的なスタッコ仕上げ)

階段への壁の印象的なスタッコ仕上げ
(階段への壁の印象的なスタッコ仕上げ)

階段への壁の印象的なスタッコ仕上げ
(階段への壁の印象的なスタッコ仕上げ)

印象的なスタッコ壁
(印象的なスタッコ壁)

天端はおそらく石・鉄・スタッコとの取り合い
(天端はおそらく石・鉄・スタッコとの取り合い)

人が移りこむくらい艶のあるスタッコ仕上げでした。

ヴェローナ銀行 スタッコ仕上げ
(ヴェローナ銀行 スタッコ仕上げ)

ヴェネチア ブラーノ島

最後におまけとして、スカルパから離れて今回の旅で訪れたブラーノ島について。
ブラーノ島とはヴェネチアの離島でカラフルな町並みが有名です。

ブラーノ島 町並み
(ブラーノ島 町並み)

ブラーノ島 町並み
(ブラーノ島 町並み)
町並みがカラフルになったのは、漁に出て帰る時に霧が立ち込める中でも自分の家が分かるように隣の家と違う色にカラフルに塗ったからだそうです。
(これはノルウェーのトロムソという町でも同じような話を聞きました。ノルウェーの場合は日が落ちるのが早く暗くなってからでも自分の家が分かるようにと酔っぱらって帰っても家の間違えないようにと教えられました。)

赤、青、黄と非常にポップでカラフルな色ですね。

ブラーノ島 町並み
(ブラーノ島 町並み)

この島はレース刺繍も有名。
漁師の町で男たちが海に出ている間、女たちは漁の網の補修技術から刺繍やレース編みの技術を発展させていったそうです。
旅の記念に買ったレースを日本に持ち帰ってから左官仕上げに応用しました。

ブラーノ島 レース刺繍
(ブラーノ島 レース刺繍)

レースを型にして、同じイタリアの材料「オルトレマテリア」を塗り込み、模様を転写しました。

ブラーノ島 レース刺繍とオルトレマテリア
(ブラーノ島 レース刺繍+オルトレマテリア)

ブラーノ島 レース刺繍とオルトレマテリア
(ブラーノ島 レース刺繍+オルトレマテリア)

もったいない気もしましたが、このように非常に綺麗な模様に仕上がりました。

オルトレマテリア ブラーノレース仕上げ
(オルトレマテリア ブラーノレース仕上げ)

色をのせることで凹凸に深みが出ます。

オルトレマテリア ブラーノレース仕上げ
(オルトレマテリア ブラーノレース仕上げ)


今回、イタリアの左官仕上げやカルロスカルパの建築に触れて非常にいい刺激を得ました。
カルロスカルパが発展させた素晴らしいスタッコ仕上げ、イタリアの素晴らしい左官仕上げを今後の日本の左官にも活かしていきたいです。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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